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※※※

 

 私、星河恵美は今、あり得ない光景を目の当たりにしているのかもしれません。何故なら、私の目の前に立っているのは……。

「この辺りにはどうやらミハエルはいないみたいですね。微かに力を感じたのですが、去ってしまった後のようです」

「近々ここを訪れることは確かだ。不明な点はあるが、少なくとも以前のような失態を犯すような奴とは考えられない。今分かっているのは、ミハエルが彼女のところに『意図的に』現れたことのみ」

「あ、あの……」

 私を置いて勝手に話が進んでいくのを見て、思わず声をかけてしまった。きっと、ここで声をかけなかったとしたら勝手に終わっていたかもしれないのに、この時の私はどうしても話さずにはいられなかったのです。

「申し訳ありません。突然貴女の前に現れて、事情も説明しないまま巻き込んでしまって」

「い、いいんです。それよりも……お二人は一体、何を……」

「……星を愛する者に出会ったか?」

「え?」

 思わず、心臓が跳ね上がるような感覚がしました。その人が発した声が今まで聞いた中で綺麗で染み渡るようなものだったこともありましたが、それ以前に、『星』という言葉が出てきたことに驚いてしまったのです。

「その反応から察するに、貴女は彼に会ったと確信しました……申し遅れました。私はジブリールと申します。こちらはアズラエル」

「俺達は『ミハエル』と名乗る者を探している。失礼だが、名前を聞かせていただきたい」

「星河恵美です……」

「メグミ、以前ここでミハエルと会わなかったか?」

 ミハエル……恐らく、星空が輝く夜に出会った、不思議な方のことでしょう。あのお方の話を聞いた時、私は強烈な既視感を覚えたのです。あの時聞いたのは、『昼の星』のこと。

 その方とお二人には、一体どのような関係があるのでしょう?

「はい。確かに昨夜、私はその方とお会いしました。夜の間だけお話して、それから別れましたけど……」

「彼はその時、どんな話をしていましたか?」

「星についてのお話です。私は、星が……星が輝ける夜空が大好きです。そのことをお話した時に、ミハエルさんは昼の星のこと、夜の星のことを教えてくださいました」

「……貴重なお時間を私達の為に割いてくださり、ありがとうございます。くれぐれも、お身体に気を付けて」

「え、あ、はい……分かりました」

 それだけを確認すると、二人は歩き去ってしまいました。

「何だったのでしょうか……?」

 思わず私は呟いてしまいました。 ジブリールさんもアズラエルさんも、不思議な魅力を持った方でした。今までお会いした中でも、とてつもなく輝いているように見えて、私は少しだけ羨ましく思いました。

 そして、ミハエルさんの時と同じような既視感を覚え、

「……これは一体、どういうことでしょう?」

 一瞬感じた既視感も、すぐに忘れてしまいました。思い出そうとしても、これ以上は何も思い出せそうにありません。

 今私に出来るのは、この瞬間が気のせいだと思うことしかありませんでした。

「昼の星……私は、見つかることのない、昼の星……」

 以前ミハエルさんが話してくださったことを思い出して、照らし合わせずにはいられませんでした。そう考えだすと、あれだけ『星に生まれたい』と願っていた想いも、瞬時に消え去っていくような気がして。私は一体、どうしたらいいのか分からなくて。

「どうしたらいいのでしょう……」

 結局、疑問だけが私の頭に残ったのです。

 その日、私は大好きな夜空を描くことなく、一日を終えることとなりました。

 

 

「不思議な方でした。懐かしい、と思わされるとは私は考えもしなかったです」

「けど、同一人物ではなかった。彼女は『知らない』。何もな」

「そうですね。だからこそ、ミハエルは『教えよう』としているのかもしれません」

「厄介なことになるな……早い所連れて帰ろう」

「それが一番、ですね」

 

※※※

 

 マロン達がたどり着いたところは、とっても大きな場所だったの!

 すごーい……地上にはこんな大きなところがあるなんて知らなかった! とっても広い!

「はしゃぎ回るな」

 スバルが何か言ってる気がするけど、気にしなーい、気にしない!

「とても大きな機械がありますわね……これは何をする為のものなのですの?」

「プラネタリウム、っていう奴だ。これは星を映し出すのに使う」

「ここで見る星はすごいからねぇ。君達も一緒に見ていきなよ。感動するよ?」

 星空が見られるの? それってすごいことかもしれない?

 お昼に星が現れるなんて魔法みたい!

「お前さん、いつものように頼むよ」

「……分かった」

 ソウイチローに頼まれて、スバルは何かを弄りだしている。一体何をしているのかな?

 ここに来てマロンはたくさんのことを知っていく気がする。今まで体験出来なかったことが次々と起きて、とっても充実している気がする! けど、試験に合格して上級天使になりたいし、何よりミハエル様に会えないのはとっても悲しい! あぁ、ミハエル様。今どこで何をしているのでしょう?

「乙女になってないで戻ってらっしゃい、マロン」

「ふにゃっ」

 シベリアの声が聞こえた気がする……?

「……準備出来た」

「お。待ってました。それじゃあ二人とも、椅子に座って」

 誘導されるままに、マロンとシベリアは椅子に座った。自然と天井を見上げる形になって、なんだか不思議な椅子をしているんだなぁって思った。

 すると、次第に中が暗くなっていくのが分かった。

「あれ? もう夜に?」

「違いますわ。きっと暗くしているのですわ」

「そうそう。プラネタリウムは暗くしないと星が良く分からないからね」

「ほぇ?」

 ソウイチローがそう言った次の瞬間、突然部屋の中が夜になったの。ただの暗い場所だったのが、一気に星で埋まっちゃった!

「ほわぁ……!」

 輝く星々。とっても綺麗な夜空。まるで魔法みたいに空が生まれた。地上ってすごい……こんな小さな場所でもお空をつくっちゃうなんて!

「こんな技術があったなんて……知りませんでしたわ……!」

 シベリアも感動しているみたい。どれも天上界では見たこともなかったようなものばかりで、マロンもすごい感動っ!

 少しお持ち帰りしたいなぁ……けど、きっと駄目なんだろうなぁ。

「ははは。感動しているみたいでよかったよ」

「九道が言うな」

「いいじゃないか。僕としては、感動してくれる人が居て嬉しいんだ」

「……勝手にしろ」

「素直じゃないなぁ」

 しばらくマロン達はこの星を堪能したの。

 はぁ……こんなにすごいものが見れて、マロン幸せ!

※※※

 

 あれからしばらく小さな夜空を堪能したマロン達は、無理を言って本当の夜空を眺めに行くことにしたの。

 きっかけは二つ。一つはマロンとシベリアのお願いがあったから。もう一つは、

「お前さん、久しぶりに夜空を見に行かないかい?」

「……どういう風の吹き回しだ」

「せっかくだから、この世界の夜空を見せてあげたいなと思ってね。これだけたくさんの灯りに溢れた場所だけど、僕としては星の美しさを知ってもらいたかったんだ」

 という、ソウイチローの言葉があったから。

 スバルは渋々、って感じだったけど一緒に来てくれることになったの。綺麗な空かぁ……隣にミハエル様が居てくださったら、もっとロマンティックになるんだろうなぁ。

「ところで、そっちの世界からは空は見えるのかい? 雲の上ってことは、もしかしたらって思ってね」

「星空は遥か上にありますわ。太陽も同じように私達よりも上にあります。ですから、雲一つない空が見えますわ」

「青空か星空だけってことかい?」

「そういうことになりますわね」

 シベリアとソウイチローは結構仲良くなったみたい。

 対するスバルはさっきから無言のまま。空を見に行くと言った時から乗り気じゃないみたい。

「どうしたの?」

「……」

 話しかけても無言。ずーっと黙ったまま。うう……こうなったら意地でも……!

「どれだけ綺麗なんだろうね」

「綺麗、だろうな」

「……星、好きじゃないの?」

「……っ」

 あ、少しだけ反応があったみたい。この調子なら……っ!

「マロンはとっても大好き! ミハエル様と一緒に見れたらもっと好きになれるかも!」

「……夜空じゃなくてもいいだろ。君はただ、綺麗なものを誰かと一緒に共有したいだけ。例えばそれは、ライトアップされた大きな塔でもよければ、静かに流れる海でもいい。誰かと共有したいという想いだけがそこにある。星が好きなわけではない」

「……?」

 スバルがとっても難しいことを言っている。んー……えっと、つまりこれって一体どういうことなのかな? 考えている内にお腹すいてきちゃいそう。

「……関係ない話だ。聞き流せ」

「そうもいかないよぅ。もぐもぐ」

「クロワッサン食べながら聞く話じゃない……というより、どこから出したんだ」

 溜息交じりにそう言ってくるスバル。だけど、

「これでやっとまともにお話が出来たね!」

「……そうだな」

 無表情なのは相変わらずだけど、声が少しだけ柔らかくなった気がする。うーん、仲良くなるにはもう少し時間がかかりそう?

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