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「君達は天上界からやってきた者か?」

 

 そんな時、マロンの耳にそんな言葉が飛んできたの。

 この声は……この胸の高鳴りは……間違いない。あのお方の声! けど、どうして地上にやってきているのでしょう。けど、これはもしかして運命なのかもしれないわっ!

「ま、まさか……ミハエル様!?」

 シベリア様も驚いているみたい。そっくりさんだなんてマロンは思えない。だってそれはマロン自身が一番よく分かってるもん!

「久しいな、シベリア。しかしながらこちらに来ているとは思ってもみなかったが」

「わたくしもですわ。一体、どういった目的で……」

 あれ? シベリア様とミハエル様ってもしかして……知り合い同士だったりするの!? 今までそんなこと一度も聞いたことなかったのに! 後できっちり問い詰めてやるんだからっ!

「……誰だ」

「失礼。突然姿を現して申し訳ない」

 スバルの声に反応したのは……やっぱりミハエル様! あぁ、やっぱり素敵……胸がどきどきするの! もうこの恋は本物なのねっ。もしかして、マロン達の為に……!

「天上界、とか言ってたけど、もしかして貴方もこの子の関係者だったりするのかい?」

「……同じ感覚だ。確かに同じ世界から来ているようだ」

「ミハエル様、もしや私達を連れ戻しに来てくださったのですか?」

「すまない。何者かが堕ちたことは聞いていたが、私の目的は違う」

 ミハエル様はちじょうに自らの意思で訪れたみたい。たとえ目的が違っていたとしても、ここでこうしてミハエル様とお会い出来るなんて幸せ……はぁ……一生大事にしなきゃ!

「お前、何者だ」

 少し警戒している様子のスバル。むぅ……。

「そんな顔をするなんてミハエル様に失礼だよっ! ミハエル様はかっこいいし声も綺麗だしすごいお方なんだから! 四大天使の一人なんだよっ!」

「よんだい、てんし?」

 そうなの! ミハエル様は本当にすごいお方……ああ、こんなに近くに……マロンの近くに居るなんて夢見たい……!

「願いが叶いそうでよかったな」

 スバルに言われて思い出した。

 そうだ……今こそ夢が叶う瞬間だわっ! ミハエル様と一緒に空を眺めて……この綺麗な夜空を……っ!

「願い? 一体なんのことかね?」

「マロンとやらがお前と一緒に星を見たいのだそうだ」

「マロン? ……ふむ……」

 ミハエル様の視線がこっちに……きゃっ!

「……星は好きか?」

「はい! ミハエル様と一緒に見れる星ならばもっと好きですっ!」

 きゃーっ! マロン今、ミハエル様とお話してる!

 意識飛んじゃいそう……胸が張り裂けちゃいそう。

「ふむ……場面を取るか。そのものではなく、その瞬間が好みなのだな。私はこの星を愛している。少し考え方がずれているやもしれぬな」

「……お前は何を目的にしている」

 少し強引に話を切り替えるスバル。

 うう……今はマロンが話しているのに……。

「君は星が嫌いなのかね?」

「……綺麗だとは思う」

「やはり好きではないみたいだな」

「……似たようなことを最近言われたばかりだ」

「麦わら帽子を被った女の子に、かね?」

「っ! ……知っているのか」

「昨日会ったばかりだ。まぁよい。今は星について語ろうぞ」

「ミハエル様と星について語れるなんて……幸せです……っ」

 はふぅ……。夢心地に浸りすぎて何を話したらいいのか分からなくなっちゃいそう。だけど、今この瞬間を捨てるわけにはいかないわっ! この機会を活かすのよマロンっ!

「嬢ちゃんの目がハートマークになってるよ」

「仕方ないのですわ……憧れの殿方とこうして話出来ることは、マロンにとって幸せなことなのですわ……」

「君も苦労しているんだねぇ」

「労いの言葉感謝致しますわ……」

 端っこの方でソウイチローとシベリアが何か言っているけど、今マロンはミハエル様しか見えてないのっ!

「空は自分達が生きている世界そのものだ。だが、私達の見る空と、君達の見る空は別物であることは分かるだろう。私達の空には雲はない。だが、不思議と同じように空を見上げる。見上げることに変わりはない。同じものを見ていないはずなのに、私達と君達は同じものを見ているのだ。不思議だとは思わないか?」

「そっちからでも星は見えるのかい?」

 目を輝かせながらソウイチローが尋ねてくる。

 一番活き活きしている気がするかも?

「星は見える。だが、雲は見えない。この時点で私達の間では相違点がある。これは、君達や私達が生きている世界が違うことを示唆しているとは思わないかね?」

「……一理あるな」

 うう……なんだろう。今みんながとっても難しいこと話している気がする……追いつけないよぅ。

「私は、この星を愛している」

「それは星を愛しているとは言えないな。お前が愛しているのは『この星』だ。すべての星のことを指していない」

「『この星』が好きな理由は、あらゆる可能性に満ち溢れていること、それから、多くの動きがあること。空は見事にこれを表現している。そう言った意味では空も好きだ。例えば星で言うとすれば、昼間は見えないところで輝いているが、夜になると個を主張する。それは一種の社会の構図にも見える。星そのものの美しさはさることながら、私は空をそのように捉える観点も持っている。もちろん、違う観点も持ち合わせているが」

「ミハエル様は、空が生きる場所、星は生きる者として捉えている、ということになるのです?」

「シベリアの言う通りだな」

「……だとしたら、尚更俺は星が嫌いだ。星の輝きは簡単に掻き消されてしまう。より強い者の光は、弱い光を打ち消す。簡単に、存在は消されてしまう。認知されなくなってしまう」

 ……ふみゅ?

「意外だなぁ。お前さん、そんなこと考えていただなんて」

「聞かれなかっただけだ。九道には関係ない」

「心外だなぁ」

 こうしてみると、スバルとソウイチローが仲良しさんなのが分かる。けど、今はミハエル様になんとしても追い付かないと……っ。

「一理あるな。だが、こうは考えないかね? 星は自身の力で輝く。その輝きは一瞬であるからこそ、人々の心を打つ。ただし、星の寿命は人間の寿命を遥かに上回る。私達が眺める星は、常に遅れて届く光の結果だ。たとえ認知されなかったとしても、星は輝ける。強い光に掻き消されるかもしれぬが、違う誰かがその輝きを眺めているかもしれない。大衆に診られなかったとしても、たった一つの星を探すことが出来れば、それはきっと立派なことではないのかね?」

「……言いたいことも目的もなんとなく察しがついた」

「え、今ので分かったの? スバルん」

「……変な名前で呼ぶな」

 あ、驚きのあまりにちょっと変な呼び方になっちゃった。けど、スバルんってなんか響きがいいかもっ! これからそう呼ぶことにしよーっと!

「……マイペースな少女だな」

「申し訳ありません、ミハエル様……マロンには後でしっかりと言いつけておきますので……」

 あれ? なんでシベリアが頭下げてるの? 何かいけないことでもしちゃったのかな?

「それで、お前の目的は……」

「ああ、それを聞くのかい? そうだね……」

 スバルんの問いに対して、ミハエル様はこう答えた。

 

「この世界に居る『たった一つのお星さま』を探しに来た、ってところだな」

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