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※※※

 

「もしもし警察ですか?」

「来て早々通報するのやめてくれないかな?」

「とうとう九道が犯罪に」

「手を染めてないからね? 電話でも言ったでしょ? この子達には事情があるみたいなんだよ」

 マロン達が案内されたのは、茶色くて少し古くなっている建物だったの。『あめふり荘』って名前の、たしか『あぱーと』っていうやつだったかな? たくさんの人が住んでるみたいなの。仲良しさんだね! って思ったけど、話したことはあまりないみたい。不思議だなぁ。

 その中の『九道総一郎』って書かれた部屋の前まで来たら、

「それが僕の名前だよ。僕は九道総一郎っていうんだ。よろしくね」

 って言いながら、にっこりと皺を作ってた。不思議な人だなぁ。

 中は少し狭くって、黒い箱と小さな机が床の上に置かれていて、ちょっと離れたところに台所みたいな場所があるだけ。本当にここにたくさんの人がいるのかな?

 そう思ってた時、突然知らない男の人が入ってきた。たぶん、ソウイチローより若いくらいかな? ぴょんって跳ねた髪の毛に、眼鏡をかけた背の高い男の人。かっこいいけど、ミハエル様には勝てないわ! そんな方が、入ってきて早々一言言ったのがあの言葉だったってわけ。よく分かったかな?

「何ドヤ顔しているんですの……」

 シベリアが何か言っているけど気にしない気にしなーい。

「……で、九道。これは一体どういうことだ?」

「とりあえずこの子の話だけでも聞いてあげてもらっていいかな? 僕にも事情はよく分からないんだ」

「分からないままここまで連れてきたのか……」

 これはひょっとしてマロンの出番? そしたらわかりやすく簡単に済ませないとね!

「実はね! 天上界へ帰る方法を探してるの!」

「救急車を用意しろ。今すぐに」

「いくらなんでも早すぎるよ!?」

 きゅうきゅうしゃ、ってなんだろう? もしかしてそれを使えばここから天上界まで帰れるのかな?

「……わたくしから説明させて頂きますわ。マロンが話していちゃいつまで経っても終わりませんもの」

「!? うさぎが喋った……すごい腹話術だ」

「腹話術ではなくて、実際にわたくしが喋っているのですわ」

「本気か……?」

 信じてないって言いたげな表情を浮かべているお方。こうしちゃいられない……なんとしても信じさせるんだから!

「シベリア様はすっごい天使なんだよ!」

「天使?」

「けどね、マロンが空から落ちちゃったから……こんなことに」

「空から落ちてきた?」

「おっ。これはひょっとして、本当に『空から落ちてきた女の子』ってやつだね? お前さん、僕が言ったことが本当になったみたいだよ。あの時言った通りじゃないか」

「随分手の込んだ芝居だな」

「芝居じゃないってば! 現実……ん、現実? えーと、何て言ったらいいのか分からないな……つまり……ところで、君達は一体誰なんだい?」

「名前も聞いていなかったのか」

 ソウイチローと男の人の二人で何やら話が進んでいる。むぅ……マロンなんだか置いてけぼり。

「申し遅れました。私はシベリアと言いますわ。こちらは……」

「マロンはね、マロン・グラッセっていうの! 世界はマロンを中心に回っているの!」

「頭の悪い電波少女だな」

「さっきから辛辣だよ?」

「奥さんが悲しむな」

「だから関係ないってば! それよりお前さんも名乗らなきゃだよ。君のいい名前を言ってあげなよ」

「……竜ヶ崎スバル」

 スバル、って言うんだ、このお方。

「スバル……いいお名前ですわね」

「……」

 シベリアが名前を褒めたけど、スバルは無視している。あまりしゃべらないタイプの人なのかな?

「それで、君達の事情を聞かせてもらえないかい? もしかしたら、僕達でどうにか出来ることがあるかもしれないからさ」

「俺を巻き込むな。勝手にしろ」

「硬いこと言わないであげなよ。人助けだと思ってさ」

「知るか。電波女だろ」

 でんぱ……そういえば、『ぱそこん』で調べた中にその言葉の意味もあったような……たしか、でんぱって……うーん、駄目だ、思い出せないよぅ。

「では、わたくしから説明させて頂きますわ」

 そう言ってシベリアは前に出る。そして何か色々喋っている。

 ソウイチローは頷きながら、スバルはずっと目を閉じて髪の毛を右手で掻き毟りながら、シベリア様の話を聞いていた。

「俺達じゃ力になれない。余所を当たれ」

「んー、僕にもちょっと難しいかもなぁ。興味ある話ではあるけど、空想の域を出ないし、それが事実だったとしても解決策を提示し難いね。僕は星については詳しいけど、それだけだからね」

「そんな……このままでは、マロンの試験に間に合いませんわ……」

「えーっ!? それは困るよ! マロンこのままじゃ……」

 せっかくあんなに頑張ったのに! どれだけたくさん頑張っても、受けられなきゃ意味がないよ! うぅ、ここは楽しいけど……。

「ところで、君達はこれからどうするんだい?」

「どうするって……そう言われましても……」

「何とかする!」

 そうだ! 何とかするしかない! これもまた試練。乗り越えられたらきっと、何かが開けるかもしれないし!

 それでこそ上級天使への道! それでこそ試練!

「……大丈夫なんじゃないか?」

「けど、さっきの話が本当なら、君達は住処がないと思うんだけど」

「あっ……」

 そう言えばそうだった。さっきは『まんがきっさ』で泊まったけど、これからはどうしよう?

「九道の家で預かれ。拾ったのは九道だ」

「いや、拾ったってペットじゃないんだからさ……けど、それがいいのかもしれないね」

「わたくし達をここに置いてくださるのですか?」

 もしかしてこれって、何とかなる予感?

「うーん、僕のところに来てもいいんだけど、僕は割と外にいることが多いからね……そうだ! お前さん、客は欲しくないかい?」

「……まさか」

「お前さんのところの客として」

「断る」

「せめて最後まで言わせて欲しかったかなぁ」

 困った様子で何か言っているソウイチロー。きっぱりと断ったスバルの目には、『めんどくさい』の色が入っている。

 マロンとシベリア様は話に入っていけない。というより、さっきからスバル、マロン達の方に目を向けていない気がするの。

 何より、このお方……。

「……透明、なのかな?」

「! ……なんでだ」

「ほぇ?」

 マロンが呟いた時、スバルは驚いた表情を浮かべたの。そして、『なんで分かった?』って感じで尋ねてきた。

「なんだろう? さっきからマロン達の言葉に対して、うーん、スバルの言葉を聞いていない? そう思ったの」

「……一週間だけだ」

「! それじゃあ……わたくし達を」

「ああ。父親――館長には事情を話しておく。それでいいな?」

「ありがとうございます! マロンもほら……」

「ほぇ? えっと、ありがとうございます?」

「あまり深く理解出来ていないみたいだよ、その子。天然さんかもしれないね」

「……やっぱり、馬鹿だ」

「バカじゃないよ! マロンたくさん勉強してるもん!」

 失礼な人だよ! 人のことをバカって言っちゃいけないんだよ! それにマロンは賢いんだから!

 何がともあれ、こうしてマロン達はスバルのところでしばらくお世話になることになるのだった。

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