第五章【天三】 おっさんが少女誘拐しました? いえ、保護したんです
あれからマロン達は、地上でのことをたくさん知ったの。サリエが教えてくれたことは今まで知らなかったことばかりで、マロンはまた一つ賢くなったんだよ! えっへん!
「地上というのはすごいですわね……こんなにも情報に溢れた場所だったなんて……」
マロンの横で飛んでいるシベリアも感激しているみたい。うさぎだから表情があまり分からないけど。
「こんなに面白い場所だったなんて思わなかった!」
「マロン、わたくし達の目的、忘れたわけではありませんわよね?」
「うう……そうだった……つい夢中になっちゃって……」
マロン達は天上界へ帰らなくちゃいけないけど、結局その為のことは何も見つからなかったの。あれだけたくさんのことが書かれてたのに、全然天上界へ通じることが書かれていないなんて……。
「でも、大変興味深い記述はありましたわね。たしか……『舞い降りた天使キタコレー』みたいなものとか」
「ワクテカ! とかどんな時に使うんだろう……マロン、気になります!」
「こっちに染まりすぎですわよマロン……」
あれ? どうしてシベリアはあきれた感じでこっちを見てくるんだろう……ま、いっか!
「ところでシベリア……様、今は何時くらい?」
「今完全に『様』を忘れるところでしたわね?」
「ち、違うよ! 忘れたわけじゃないもん! ただお腹が空いてきちゃったからお腹が気になっちゃっただけだもん!」
「空腹の方が時間よりも気になるみたいですわね……けど、マロンの腹時計は合ってるかもしれませんわ」
シベリアが教えてくれた時間は、午前九時くらい。んー、そろそろ朝ごはんの時間かな?
「それじゃあ、こんな時のためのクロワッサン!」
「もうツッコミませんわよ……」
「こ、これはマロンのものだからねっ! 食べちゃダメだからね!」
「分かってますわよ……」
シベリアのまわりにぐるぐる巻きみたいなものが見えるけど、たぶん気のせいだよねっ!
さっそく食べちゃおーっと。
「いっただっき……」
「おや? 君達ひょっとして昨日の……」
「まーっす?」
食べようとしたところで、マロン達は男の人に話しかけられたの。えーっと……ヨレヨレの白衣を着ているこのお方は、だれ?
「なんでキョトンとしちゃってるのかな……」
「ほぇ? うーんと、はじめまして?」
「初めましてじゃないんだけどなぁ……まいったなぁ……昨日とちょっと違う感じになっちゃってるし……僕間違えて声かけちゃったかな……けど、ウサギのぬいぐるみは確かに見た通り……やっぱり飛んでる!?」
何か一人で盛り上がっている男の人が居た。えーっと……こういう人って確か……。
「ふしんしゃ?」
「ちがうよ? 僕は怪しい人じゃないよ? って言い回しがもう怪しい人なのか……うーん、アイツを呼んじゃった方が早いかなぁ」
何やら困っている様子。なんだかよくわからないけど、困ってる人が居たら助けてあげなくっちゃ!
「何かおこまりでしょーか?」
「ただ今絶賛君のことでお困り中かな」
「マロンのことで?」
「マロンっていうんだね。この前は聞きそびれちゃったから」
「マロンの名前を知っている!?」
「いや、お宅今自分で名乗ったよね?」
うう、地上の人たちってこんな力があったなんて……マロンも負けていられないね!
「マロン、茶番はここまでにしておいた方がよろしいですわ」
「やっぱり喋った!?」
「ち、ちがうよ? これはマロンの『ふくわじゅつ』だもん!」
「ふ、ふくわ、じゅつ?」
シベリアの話だと、確かこっちの人たちはシベリアみたいな生き物が話すのがバレちゃうと、めんどくさいことが起きるからかくしとけー、みたいな話だったよね?
「もういいですわよマロン……このお方にはもう、わたくしが飛んでいるところも、話しているところも見られていますし、無理に隠す必要もありませんわ」
「ほぇ? そうなの?」
納得いくような、いかないような……ま、いっか! 今はクロワッサンの方が大切だよ!
「話をぶっちぎってまでクロワッサンを食べるのかい……まったく、僕の周りにやってくる人達はマイペースな人が多いなぁ」
「あ、あはは……返す言葉もありませんわ」
シベリアと男の人が仲良くなったみたい。仲良しさんが多いのはいいことだよ!
「こうなった以上、貴方には事情を説明させて頂きたいのですが……よろしいですか?」
「うーん、何やら訳ありみたいだね。いいよ。けどちょっと待ってね。呼びたい人が居るから、話はその人が来てからでもいいかな?」
「構いませんわ。マロンもそれでいいですわよね?」
「うん、よくわからないけど大丈夫だよ!」
「話を聞いてたか不安になりますわ……」
よくわからないけど、この場から動くのは確かなんだよね? ついでに何かご飯を食べさせてくれるとうれしいなぁ……。『どーなっつ』も気になるし。
「ま、まぁ、いいですわ……それじゃあ、行きますわよ」
「僕にちゃんとついてきてね」
はーいっ。