top of page

第四章【地二】 恵美とミカエル様の逢い引きを目撃いたしました、どうも星です。

「星に生まれたい、なんてありふれた願いだと、そう思いますけど……」
「どうして、そう思うのかな?」
どうやら不意に現れた見知らぬ男性に対する戸惑いは私の顔にもはっきりと表れていたようで、ミハエルさんは苦笑しながら、私の答えを優しい表情で待っていた。
「星って……とってもきれいじゃないですか。誰の力も借りずに、どこまでも続く夜空に明かりをともしている」
「誰の力も借りずに、か」
ミハエルさんはゆっくりと顔を上げて夜空に目を移した。何色とも形容しがたい、彼の背中にくっついているきれいな翼は柔らかな月の光を反射して、つややかな輝きを湛えている。
「ところで、君は星がどのようにして光っているのか知っているかな。光はエネルギーだ。ではそのエネルギーはどこから生まれたのか、考えたことはあるかい?」
「えっ……えっと……」
突然の問いかけに返す言葉が浮かばなかった。そういえば私は理科はあまり得意じゃなかった。エネルギーなんて言われても正直よくわからなかった。
「まばゆく光る夜空の星の中心では、大量のガスが絶えず核融合していて、莫大なエネルギーを生んでいる。私たちが目にしている星の輝きは、爆発した水素爆弾の閃光のようなものだ。太陽だってそうさ」
「なんか……ロマンがあるようなないような話ですね……」
「ガスが燃えているということはいつかは燃え尽きてしまうわけで、夜空の星にも生命の終わりがある」
「ところで、『夜空の星』と私は言ったけど、昼の間にも夜と同じだけの星が空にはあるのさ」
「えっ」
私は一瞬、彼の言うことがよく理解できなかった。
「昼間はもう太陽の天下さ。星は、太陽の隠れた夜になって、ようやく我々の目にも見えるようになる。昼間の星はどんなにまばゆく輝いても、太陽のまぶしさには及ばないので私たちの目にも映らない。その星が死ぬまでそうだよ」
私が一生懸命に耳を傾ける中、彼はその難しい話を最後まで続けた。
「しかし、夜の星は違う。昼間の星ほど輝いていなくても、太陽が隠れたおかげで今こうして私たちの目に映っているわけさ。人間に、素敵な名前だってつけてもらえる。神様のように扱ってもらえることさえある。それに比べて昼間の星はどうかな?」
そこまで聞いて、私は強烈な既視感を覚えていた。前にも、私にこんなことを言っていた人がいた気がした。私は無性にまたその話を聞きたくなっていた。
「思い当たることがあるようだね」
「ええ……なんとなく」
さっきまで難しい話を聞いていたせいか、もう夜も遅くなってきたせいか、眠くなってきた。話をしながらあくびをしてしまわないように気を遣っている。
「そういえば君、眠そうだね」
「あっ、やっぱりそう見えちゃいますか……正直、少し眠いです」
「夜更かしは身体に毒だしそろそろ寝た方がいい」
腕時計の針は深夜の時間を指していた。そして何より私は眠かったので彼の言葉に甘えることにした。
「ではそろそろ私は家に帰ることにしますね」
「そうかい、良い夢を」
「おやすみなさい」
そう言って私は帰路に就いた。静まり返った部屋のドアを開けて、すぐさまベッドに身を横たえると、例のミハエルさんとのやり取りが思い出された。そのまま眠りに落ちた。どんな夢を見たかは、憶えていない。

bottom of page