ええと、この人何語喋っているんだろう。
「でもアレレ? 二人いると思ったんだケドも。あんさん一人しかいらっ
しゃらないのかい? ……もしかして、そこのウサギさんのぬいぐるみで腹話術してたのかい! ブラボー!」
腹話術ってなんだろう? ともかくシベリアがぬいぐるみと間違えられているようだったので、そこは否定しておこう。
「違うよ、シベリアは……」
「マロン!」
私が説明をしようと思ったのに、シベリアはそれを小声で制した。
「地上界では、私の見た目の生物が喋ることはありませんの。ですから、ここで騒ぎを起こすわけにはいかないので、ここはその『腹話術』とやらと言うことにして穏便に済ませるべきですわ!」
へぇーそうなんだ。
「ヘイユー! なにをコソコソしてるっけぇ」
「えっと、そう! 腹話術の練習をしてたの! しゃべろーしゃべろーぬーん……」
「ご、ご機嫌いかが!? ……ですわ!」
サリエは少し疑いの目でこちらを見てきている。……もしかして、バレたかな?
「これは面白いスタイルだね! なんだっけカナー。そう! いっ極道とは少し違った腹話術のスタイルだね! そうだったのカー。確かに、よく見りゃ服装もエンターテイな服装ジャン」
「そ、そうなんだよ! ね! シベリア!」
「さ、さまをつけなさい、減点にいたしますわよー」
まさか芝居中でも指摘してくるとは思わなかったよ、シベリア様。
「ほひひ! さて、存分に笑かしてモラッタかわり……。とっちゃぁなんだケドモよー。どうやら、あんたら、パソコンに触るのは初めてみたいダネ。このご時世、デジタルに生きないなんてストイックねぇ!」
「はい、特にこの文字盤がよく分からなくて……」
「ん、キーボードのことカナ? そうさねぇ。ってことはローマ字も知らんのカナ?」
ローマ字? なんのことだろう?
「図星ってカンジの顔デスねぇ。そうかそうかー。じゃぁちょっくら待ってくんろ」
そういうと、サリエは部屋を出ていったしまった。と、思ったらすぐに戻ってきた。
「アイルビーバックってなカンジでお待たせしたネ! はいこれ、ローマ字表デスたい」
といって、茶莉依から一枚の紙をもらった。そこには、「きーぼーど」という文字盤と同じ絵と、説明文が載っていた。
「もしかしてこれって、説明書ですか?」
「ソダヨー。適当に画像検索してピックアップしたもんだけんどネェ」
「ありがとうございます!」
「いえいえいえ。またなんかあったら読んでくれってよ。右隣の部屋にいるからネ。あ、ソーダ! 腹話術の練習はホドホドにしておくんだましー」
そういって、サリエは部屋から出ていった。なんか滅茶苦茶な人だったけど、いい人だったなぁ。話してること、あんまり理解できなかったけど。
「……アレアレ? あのヒト以外にも天使が来ちょるなんて、聞いてねーズラ。どしたのカナ? エマージェンシーかしラ?」
ん? まだサリエさん、なんか言ってたけど独り言かな……
※※※
夜、河原に寝そべって、こうして星空を眺めていると、いつも考えさせられる。どうして星々はすこし離れていても輝けるのに、人は集まらないといけないのかと。うん、やっぱり、私が描く絵よりも本物の星々の方が生き生きとしている。
「私は星に、産まれたかったな……」
やっぱり、夜に包まれると改めてそう思う。「星河」なんて飾りのついた「人間」なんかじゃなくて、「星」、そのものになりたいなって。
「星に生まれたい、か。なかなか詩的な表現だな。私はその言葉、とても好きだぞ」
しばらくすると、そう言葉が聞こえて、人影がこちらに向かってきました。
「……どちらさまでしょか?」
その人影はこちらに近づく前に、名前を名乗った。
「私はミハエル。この星を愛する者だ」
ミハエルさん、と名乗った男性は、見たことがない奇抜な服装をしていましたが、何より少し驚いたのが、背中から綺麗な六本の翼が生えていることでした。